七条通から櫛笥、四条大宮を経て蛸薬師
都駅の自由通路を北にみれば大きく四角空が切り取られてみえる。この延長線上が室町通になっている。新しい京都駅ビルは1990年に指名コンペが実施され、町並景観への影響についても協議を重ねて1997年に完成した。それだけに京都の町と建物との関係についてもいろいろ意味付けがあるのだ。東西に横たわる大きなビルゆえ、景観に与える影響への配慮が計画段階から織り込まれている。この自由通路の空間も室町通の延長上という訳だ。烏丸通の延長上にもビル壁に大きな空間が空けられている。そのような京都の入り口の駅ビルから今回の路地裏探検の出発をしよう。さっそく勇んで出発したものの、その室町通を北へ進みプラッツ近鉄を越えるとすぐ行き止まり。彼方には東本願寺の大屋根修復の巨大な覆いがかぶさっているのが見える。室町通は東本願寺さんの敷地遮られるため、七条通の手前の小さな路地で行き止まりなのである。それでそのT字路を左にとる。路地裏探検は勝手気ままに行きたい気分でどちらへいってもかまわない。決断などいらないのだ、足の向くまま歩いていくのがいい。特に京都は他の都市と違い行き止まりが少ないので、途中で引き返すことをする必要がきわめてすくない。これもきままな路地裏探検には必要な要素であろう。そのまま西へとると新町通、その新町通が七条通と交差するところが七条新町である。グリットパターン(格子状)の京都市内地名はほぼ東西と南北の通をあわせた合成語で出来ている。この七条新町の南西角には富士ラビットという会社の建物で近代建築がある。元々は名前のとおりラビットスクーターなどを販売する会社で元日光社(自動車販売会社)の建物だった。現在は一階にはチェーン店のどんぶり屋さんが入居している。
こからは七条通を西へ進める。旧鴻池銀行七条支店、旧村井銀行七条支店、村瀬本店などこの辺りは小振りの近代建築が沢山残っている。道路幅の広い表通にもかかわらず沢山町屋があり、大型のビルやマンションもすくない。それでも最近は間口の狭い賃貸マンションなども増えている。まもなく龍谷大学大宮学舎である。大学のキャンパスといってもささやかなスペースであり通にはほとんど面していないのでまったく目立たない。ここに限らず市内の学校は通路だけ表と接していて大半は表町屋の裏側に敷地が拡がるタイプが特に京都は多いような気がする。このとなりの平安高校もそうだ。大谷大学、京都工芸繊維大学、京都府立大学、京都教育大学、府立鳥羽高校、など広い敷地学校もみな町屋の奥につつましく存在している。
条通をさらに西へ進めると町屋が目立ってくる。梅小路公園までの数キロ間はビルの少ないこの通でも特に少なく思える。特に注目は通の北側の西酢屋町の町屋の連続件数。かなり凄いので数えてみると、町屋連続29軒(残念ながら一軒だけ空地あり)それをのぞくと19軒。おみごと。こんなのが大通りにあるのはたぶん政令都市では京都だけだろう。壬生川通をこんどは北へ上がってみよう。そしてさらに正面通の今度は東へ戻る方向に進む。路地裏探検に適した京都の町の自慢は行き止まりがすくないことと先ほど言ったばかりだが、このあたりは京都にあって例外的にそれが多い。また格子状に通りが通らずT字路やクランクなども多い。だいたい大宮通以西はそんな風になる傾向だ。昭和32年の地形図を見てみると山陰本線以西はまだ郊外のような土地利用状況で水田が広がっている。西大路通は四条より南はない、現在の五条通(国道9号線)はまだ出来ていない。四条通も西院より西は四条街道と呼ばれていて田舎道の様だ。そのころ以後の開発レベルがあまりよくなかったのが原因だろう。ある意味では古い平安京の条坊制や秀吉の都市改造の恩恵を受けている地域中心部の一部と限られている。それでも路地裏探検にとってはそういう迷路のような道をいったり来たりするのもまた格別の楽しさがある。
ろうろしているうちにお腹がすいてきた。同じ入るならチェーン店やレストランなどは極力さけて食堂や町の洋食屋さんみたいなところに入りたい。だたしそういう店は想像以上に少なくなっているのでまれなチャンスとでも思っておいたほうが無難だ。まだ京都は多いほうで地方の中小都市ではほぼ全滅に近いと思ったほうがよい。とくに地方の駅前の商店街は信じがたいほど寂れてしまった。ところが今回は幸いにもいかにもそれらしい食堂を見つける。「にしんそば」と言いつつ冷蔵ケースにおかずや一品がおいてあるので覗きにいくと、ちょうところあいの鯖寿司とお稲荷さんがあったのでそれもとった。店の構えもたぶんできた当時のままで内装もほぼそのまま昭和40年ごろの雰囲気だ。テレビや調度品もレトロなまま。そういうのがまったく違和感なく全体でバランスが取れている。たいていはそこのご主人や客層までそのまま古くなっている。いや失礼、そのまま歳をめされているのがパターンだが、この店は代替わりして若い夫婦でやっているし数人の客も若い。こういう店がある地域は町がまだ活性化している証拠なのだ。年齢構成が代替わりしている、そして子供がいる街なのだ。
昼もすませてほっこりしたところで昼からのスタートをしよう。大宮通りの手前にある下松屋町通を北へ上る。このあまり知れていない通は正面通から松原通までのわずか800メートル足らず北行き一方通行の短い通である。道幅も正に路地裏そのもので両側とも庶民的な民家が殆どだ。程なくすると大路が見えてくる、五条通である。五条下松屋町には横断歩道も信号機もなく幅広い五条通は横断も出来ないので、西へ戻る方向へ歩き横断歩道を渡るがあくまでも足の向くまま気ままに歩いているので、再び下松屋町通へは戻らずそのままその道をさらに北へ上る。この通には櫛笥通と標識がついている。「櫛笥」(くしげ)と読む。知らなければ難読地名に入りそうな難しい名前であるが、歴史は古く平安京の櫛笥小路にあたる。都大路の五条通の角地ともなれば全国展開のコンビニエンスストアやコインパーキングなどが押さえている、そのようにすっかり全国統一された現在風の都市になった五条通から一歩櫛笥通へ入っていけば喧騒も届かず、寺や厨子二階の古い町屋が並ぶ昔ながらの風景が続く。そんな櫛笥通も松原中学校の敷地で遮られてT字路になって終わる。その後は辻子(図子)か私道かわらないような人一人通れる様な通路(結構こういうのが多い、たぶん綺麗にされているので公道)を潜りぬけ路地にでると嵐電の踏み切りが見えてきて、辺りはどうやら四条通に出たようだ。もうすぐそこが四条大宮である。四条大宮からは大宮通を北へ上ることにしよう。大宮通は南は伏見区真幡木町から北は北区御園橋通まで続く長い通だ。
の四条大宮までは大路だかここから北へは随分狭い生活道に変わる。車道は四条大宮から北西斜めに走る後院通をへて千本通へと引き継がれる格好になる。この通ができた経緯は明治後期の拡幅工事にある。二条駅前を平行して走る千本通を本来ならそのまま南へ拡幅する計画だったが、それ以南にある西高瀬川沿いの木材商たちの反対により斜めに迂回して大宮通りを大路に拡幅することになった、その二つの広い通を結ぶのがこの斜めの後院通というわけだ。ここから北へ大宮通は裏通りになる。四条付近は呑屋や商店が並ぶがそれもほんの一部だけで、ほどなく民家が軒をならべる通りに変わる。蛸薬師通まで来てここを右に折れて東向きに進めていこう。勝手気ままな路地裏探検も幾つかのパターンがある。しっかりテーマを決めてその予定地を通過する。ゴールだけは決めておいてそこまでは適当に進む。まったくなにも考えず放浪する。ざっとこの三種に大別されようか。今回は京都駅スタートで四条烏丸が目的地と決まっていた。目的地と残り時間、体力を考えるとそろそろ四条烏丸へ向う方へとここで進路を変更したわけだ。路地裏探検も慣れてくると体力と持ち時間で大体のその日の割り振りが判ってくる。コースの決め方でよく採用するのが周辺部から都心へ歩いていくコースである。なぜなら帰りの交通の便。最終地での次ぎの予定など実用面からそのほうが合理的である。また探検的興味も鄙から都へ町が段々洗練されていく様子を見るほうが面白い。
の意味でもこの蛸薬師はなかなかその変化に富んで楽しい通りだ。東西の通で西から東へ向う場合そのターニングポイントは京都の場合は堀川通辺りになる。まだ田舎臭さが残る千本から大宮を越えて幅の広い大路堀川を越えるとじょじょに都心の香りがしてくる。鄙から都への変化とは木造が鉄筋になるとか、町屋がビルに変わるとかそんな単純な物ではない。その違いはデティールやマチエールなど細部へのこだわりである。町がもっている肌触りとでもいえるかも知れない。だからどちらかいうと足元にその違いを感じることがある。それはなにもブロックと大理石、あるいはトタンと本檜板塀などのような貧富の差でもない。時間だけが育てることができる材質にしみこんだ品と呼べばよいだろうか。だから車で走ったのでその微妙な差を見出せる物ではない。歩いて五感が感じる空気間といえる。例えばそれは室町あたりの商店の出入り口に敷かれ沢山の靴に踏まれ続けてピカピカに光り輝く鉄板であるとか、毎日乾拭きをされて妖艶な肌つや放つ仕出屋の玄関引き戸の格子などがそうである。いくら贅沢な素材でも造っただけそのままになっているのは単なる成金趣味で田舎者のすることだ。普段使いの物でもセンスある人が使えば輝くのである。そういうものが都会的デティールと呼べるのである。そしてその都心的センスの中心地は大丸のある四条高倉から寺町辺り通なら四条通か錦市場辺りが中心の様に思える。そうこう思いながら足元に注意をしながら歩いていると空也堂、京都市特別養護老人ホーム「本能」そして旧北國銀行京都支店を経て烏丸通に到着して本日の路地裏探検の終点にたどり着いた
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